君を想った唄

日記、備忘録、そして宝箱。

Hey!Say!JUMP「ファンファーレ!」のMVが良すぎる話

 

 

 

数万年ぶりに更新しました(ガチ)。

 

山田くん主演ドラマ「セミオトコ 」の主題歌である「ファンファーレ!」が発売して、MVを見た訳ですが。

 

それぞれの世界観が最高に夏のエモさを演出してて妄想が滾りに滾ったので一応ここに残しておこうと。

 

テーマは「一夏の恋」。

 

共通設定として、主人公(女)がお盆とか夏休みかなんかで実家の田舎に帰省して、彼と出会ったら再会したりありがちなやつです。メンバーによっては若干捻った設定もアリ。

 

オチは山田くんの台詞にもあるアレにしました。

 

読んでくださる人は主人公を自分に当てはめて妄想してみてください〜

 

さあいってみよー!!

(順番はメイキングで流れた順です。挿絵にMVとメイキングを使ってます)

 

 

 

中島裕翔ver.

 

お盆休みに田舎に帰って家の周りを散歩していると、高校のクラスメイトだった中島くんと偶然再会。お互いに帰省期間で、暇を持て余してたみたいだった。

 

『あのさ、もし暇なら…今から海行かない?』

 

高校生の時、仲良しグループの男女数人でそんな約束をしたっけ。結局雨が降って行けなくて、ちょっとガッカリした記憶。

 

あの頃に戻ったような感覚になったけど、目の前の中島くんはあの頃より何倍も大人っぽくなっていた。

 

そんな彼に言われたらなんか期待してしまうけど、きっと死ぬほどモテるだろうし今更私になんかに興味持つ訳ないよなぁ。

 

軽い気持ちで返事をして、真っ昼間から海へ。

 

やっぱり地元の海の近くに来ると夏は風が気持ちいい。

 

彼はぴょんっと身軽に堤防によじ登り、テトラポットに降りていく。

 

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「え、そこ降りていいの!?危ないよ、」

 

『いーの。相変わらず真面目だな。○○も来いよ!』

 

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大きな手が差し出される。恐る恐る一緒に降りていくと、上京してから都会に囲まれ、嗅ぐことのなかった懐かしい海の匂いがする。風も気持ちいい。

 

「海の匂いだ…」

 

『なー。なんか、安心する』

 

ぺたん、と堤防に胡座で座り込んで、空を仰ぐ彼。何故かその横顔は切なげに見えた。

 

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何考えてるんだろう。

 

『あの時…』

 

「え?」

 

『高2の時。クラスの奴らと、男女で海で遊ぼうって話、結局土砂降りのせいで無くなったじゃん。あの時○○もいて』

 

中島くんも、覚えてたんだ。

 

「ああ、そうだったね。懐かしい」

 

『俺さ、もしあの時海に行けてたら、言おうと思ってた』

 

「何を?」

 

『好きだって』

 

「…誰に?」

 

『そこまで聞く?今目の前にひとりしかいないのに』

 

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苦笑しながら、ちらりと私を見た裕翔くん。

 

どうしよう、心臓の音がやまない。

 

海の音でかき消されなきゃ、聞こえてしまいそう。

 

「…昔の話、だよね?」

 

『昔の話であってほしい?』

 

ドキドキがどんどん大きくなる。

 

堤防の上で座り込んでいる2人。

 

隣の裕翔くんの手が、ゆっくりと私の手に重なった。

 

 

『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

知念侑李ver.

 

実家に帰ったら、幼馴染の侑李がうちに遊びにきていた。

 

「あれ、侑李じゃん!」

 

『久しぶり。なんか…肥えた?』

 

「失礼な!侑李は縮んだんじゃないの、背」

 

『伸びてもないけど縮んでもないわ!笑』

 

そんな昔と変わらないやり取りをしながら、2人でいつも小さい頃に遊んでいた港の近くの船着場に久しぶりに行くことにした。

 

「侑李さ、昔ここで自転車の練習してたよね。なかなか乗れるようになれなくて。運動神経良いくせに」

 

『乗り物系は苦手だったんだよ。周りがみんな乗れるようになってた頃に、恥ずかしくて。意地になって練習してなかったら、○○が「練習行くよ!」って連れ出してくれたよな』

 

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「そうそう。結構時間かかったけど、ちゃんと乗れるようになって」

 

そんなことを話しながら、乗ってきた自転車でちりんちりんとベルを鳴らしつつ船着き場の間をゆっくり走る侑李。

 

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「でもさー、侑李途中から『もう練習くるな!』とか言ってきて私のこと避けてたよね。あれなんで?」

 

当時聞けなかったことをふと聞いてみると、侑李は少し黙って呟いた。

 

『そりゃ…好きな子にカッコ悪いとこ見せたくなかったからだよ』

 

「…え?」

 

キッと自転車が止まる音。

 

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船着場の間から吹き抜ける夏の海風が、心をざわつかせる。

 

『ちゃんと乗れるようになってからその姿見せたいじゃん。必死に努力してる姿なんてカッコ悪いし。子供ながらの意地ってやつ?』

 

「な、何言ってんの、冗談…」

 

思わず茶化した返しをしたら、振り返った顔は自転車に乗れなかったあの頃とはもう全然違っていた。男の顔。

 

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『ずっと…小さい頃から、変わってない。僕の気持ちは』

 

私たちはもう幼馴染の先に進めないと思っていた。

 

侑李にもいつのまにか可愛い恋人ができていて、私は心の中でちょっとだけ泣いて、ちゃんと笑顔で「おめでとう」と伝える。そんな事まで覚悟していたのに。

 

今年こそ、帰省して彼に会ったら、この初恋にケリをつけようと思っていた。

 

それなのに、彼は言ったんだ。

 

 

 

『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

髙木雄也ver.

 

大学の夏休みで実家に帰省した。

 

いとこが経営してるサーフショップに遊びに来ていたら、いとこの友達で近所に住んでた年上の雄也くんと再会した。

 

よく小さい頃から遊んでくれたっけ。

 

『え、もう大学生か。大人っぽくなったなー』

 

当時と同じように頭をくしゃくしゃと撫でられる。

 

大人っぽくなったと言われて舞い上がったけど、やっぱり子供扱いは変わらないみたい。

 

『そうだ、このあと暇なら海の近くまで連れてってやろうか。ちょうど車の修理終わったから』

 

久しぶりだ。よく勉強の息抜きにサーフショップに来たら雄也くんに会って、そのまま海まで連れて行ってもらったっけ。

 

オレンジのトラックに乗せられて、いつもの沿岸まで車を止めてくれた。あの頃と変わらない、目の前に広がる海。

 

『着いたよ』

 

サングラスしてる雄也くんが、あの頃よりもっとカッコよく見えてじっとを見つめていると、『…何、惚れた?』とか冗談交じりにサングラスをずり下げて覗いてくる。

 

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「そんなんじゃないから!」

 

図星突かれて思わず頑なに否定したら、ケラケラ笑う雄也くん。ほんと、ずるい。

 

一緒に車を降りたら、まだ昼間の暑い日差しが照りつける。

 

『ほら、こっち』

 

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優しく私を呼ぶ声にいちいちときめく。

 

…彼女とか、いるのかな。

 

いるよね。雄也くん昔からモテてたし、いつも違う女の人と一緒にいた。今もっとカッコよくなってるし。そろそろ結婚したっておかしくない。

 

『…彼氏とかいんの?』

 

「え?」

 

考えていたのと同じ話題を自分が振られて、動揺する。

 

「い、いないけど」

 

『ふーん』

 

なんでそんなこと、聞いてくるの?

 

いつものからかい?近所のお兄ちゃんとして心配してるとか?

 

「でも、サークルの先輩に今度ご飯行こうって言われたんだ」

 

嘘ではない。だけどこんなことわざわざ言ったって、雄也くんが気にするはずないのに。無駄な見栄を張ってしまった。

 

『…へー。よかったな』

 

その返しに思わずズキ、と胸が痛む。

やっぱり、どうでもいいよね。私のことなんか。

 

『○○はこれから彼氏作るんだなー。昔はあんなに俺のこと好きだってバレバレだったのに。生意気』

 

雄也くんは車に寄りかかりながらワザとらしく残念そうに言ってくる。

 

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「っ、そんなの昔の話でしょ!?私もう子供じゃな…」

 

気づいてたんだ、私の気持ち。

 

悔しくて、雄也くんの方を見れない。下を向きながらムキになって言い返そうとしたら、いつになく真面目な低い声に遮られる。

 

『…子供でいろよ。頼むから』

 

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見上げたら、目の前で雄也くんの顔が、切なそうに歪んでる。

 

「….え、」

 

『…さっき会った時、まじで綺麗になってて驚いた。女の子ってずるいな』

 

もう余裕なんてねぇよ、って。

 

返す言葉がなくて、きっと真っ赤なってしまっている顔を抑えていると、そんな私を見て雄也くんはまたいつもの余裕そうな微笑みに戻った。

 

 

 

『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

伊野尾慧ver.

 

実家に帰省してしばらく家に居たけど、うちはお盆に親戚が皆集まってくるから、賑やかを超えて五月蝿いくらいだ。

 

せめて実家にいるときくらい静かに休みたいのに。

 

毎年その五月蝿さにうんざりする時に息抜きで家を抜け出し、そのまま近所を散歩するのが習慣になっていた。

 

夏の夕暮れ時、18時ごろ。

もう涼しくなってくる。

 

日が沈む前の、夕日でキラキラ光る海をこの橋の上から見るのが大好きで。

 

このところ仕事やプライベートでも悩みが多かったからか、自然と心が安らぐ。

 

…そういえば、去年もこうしてここから海を見てたら、時々会う人がいたっけ。

 

同じ歳くらいで、女の子みたいに綺麗な顔をしてる男の人。どこの誰なのか、わからないけど。

 

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ふと目があったら、いつもふわりと笑いかけてくれて。どきっとした。

 

知らない人なのに、その人と言葉もなく夕日を見るのがすごく安らぐ時間だった。

 

ちょうどこの季節の、この時間帯。

 

そう、あの人影がある辺りに…

 

そう思ったら、過去の記憶と現実がリンクした。

 

間違いない。あの綺麗な横顔。

 

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どこか切なげに海を眺めて、そのまま夕日と海に溶けていきそうな儚さに包まれたような。

 

思わず見つめていたら、すっとこっちを振り向いた。

 

『…また会いましたね』

 

初めて声を聞いた。優しくて落ち着いた声。

 

「…よく来るんですか?ここ。綺麗ですよね夕日」

 

『そう。夕暮れ時に歩いてたら、まじで綺麗だなって。気に入った』

 

そう言った時の笑顔が壊滅的に可愛かった。あ、でも結構、背が高いことに気づいた。ちゃんと男の人だ。

 

「分かります、私も落ち着きたい時にここに来るんです」

 

『うん。あと、またあなたに会えるんじゃないかと思って』

 

さらりと続けたその言葉に、反応が遅れる。

 

「…え?」

 

『今年の夏も会えたら、名前を聞こうと思ってました。教えてくれますか?』

 

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あまりにも自然に聞かれたもんだから、流されている気もするけど、この人に流されるなら本望かも、って思ってしまった。

 

「…○○です」

 

『僕は慧です』

 

「慧さん…」

 

そうやってぽつりと会話をすると、歳も同じくらいだって分かって。自然とタメ口になっていた。

 

距離感が、不思議な人だな。でも嫌じゃない。

 

『不思議だね。数回しか会ってないし、話したこともなかったのに。このまま二度と会えなくなるのは嫌だなって思った』

 

「わ、私も!…もう一度会えたらって…思ってて…忘れられなくて」

 

食い気味にそう言うと、ははっ、と楽しそうに笑う彼。

 

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その笑顔に、私の心の中は変に落ち着きがなくなっていった。ここには安らぎを求めて来たというのに。

 

もっと見たい、色んな彼を。

ここから始まる何かを期待してしまう。

 

『うん、俺も』

 

彼は私の方に歩み寄り、優しく微笑んだ。

 

 

 

『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

八乙女光ver.

 

田舎に帰省して久しぶりに、近所に住んでた同級生の光と再会した。

 

小さい頃はよく遊んでたっけ。兄妹みたいに毎日外で探検とかして、私も男勝りだったし。

 

『今時間ある?面白いもの見せてやるよ』

 

光くんに言われるがまま、小学校の裏の茂みの中に入っていく。

 

「あっ、ここ…」

 

小さい頃に発見した無人小屋。ちょっと古かったけど意外としっかりしてて、ライフラインさえ通れば生活できるんじゃないかってくらい。

 

よく2人でちょっと修理したり色々持ち込んだりしてたっけ。雨の日は雨宿りして、そのまま夜になって帰れなくなって、次の日2人して親に怒られたり。

 

「懐かしい…まだ綺麗なんだ」

 

『実はさ、俺○○が上京してからもたまにここ来るんだ。落ち着きたい時とか1人で来て、のんびりしてる』

 

中に入ると、なるほど当時より綺麗になって、物も結構増えていた。大人になってからの方が手の込んだ修理もしやすい。

 

サーフボード、観葉植物、ウクレレも弾いて見せてくれた。

 

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多趣味だった光らしいというか。

 

『昔雷鳴って帰れなくなってさ、○○ずっと泣いてたよなー』

 

「そんなこと覚えてるの?やめてよ恥ずかしい」

 

でも確か、ずっと『大丈夫だから』って手を握ってくれてたっけ。

 

そんなとこも好きだったなぁ。

 

結局友達止まりのまんま、私は上京してしまった。

 

『飲み物持ってきた。飲む?ストローこんなんしかないけど』

 

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カップルで飲むようなストローで1つのコップに注いで飲んで、ちょっとドキッとしたり、ふざけて笑ったり。

 

楽しい、やっぱり彼といると。

嫌なことも全部忘れられる。

 

 

『…仕事、辞めたんだって?』

 

ふと、彼から話を振られる。

 

「え?あ、うん。人間関係で色々あって…疲れちゃって。弱いよねー私」

 

せめて明るく流そうとあはは、と笑って見せるけど、彼はそんな私も真剣な顔で見つめてきた。

 

『…もうずっとここにいればいいのに』

 

「…え、」

 

『2人でこうやって、またずっと一緒にいれたらって思ってた』

 

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私の方を見ないで言葉を続ける。

 

夏の日差しが、ちらちらと窓から入って、彼の顔を照らす。

 

さっきまでふざけてたくせに、ずるいよ。

 

「…なにそれ!なんかプロポーズみたいじゃん」

 

私はその空気に耐え切れず、思わずふざけた返しをしてしまう。

 

ひどい別れ方をした元彼となんか、光を重ねたくないのに。まだ浅い傷が、私をネガティブな思考に引っ張る。

 

というよりまた終わりが来てしまったら、今度こそ立ち直れない気がする。光にだけは、嫌われたくないから。

 

机に置かれていた私の手を、おもむろに光が掴んだ。

 

『…怖がらなくていい。俺は、昔からずっと○○を見てきたから』

 

“怖がらなくていいよ”

 

雷から守ってくれた時も、同じ顔をしていたね。

 

彼の大きな目に見つめられたら、私は動けなくなる。本当は、あの時から私もずっと。言いかけたら、彼が先に言ってくれた。

 

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『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

有岡大貴ver.

 

地元に就職した私は、ド田舎の実家暮らし。

 

とある休日、特にすることもなかったので母に頼まれた買い物に出かけた。

 

正面玄関より裏庭に回った方が早いと思い裏を回ると、庭に咲く紫陽花を見覚えのある背中の男の人が眺めてる。

 

あの後ろ姿…もしかして。

 

「…大貴?」

 

『おう。久しぶり』

 

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就職と同時に上京した2軒隣の家に住んでた幼馴染の大貴。相変わらずうちの裏口から勝手に入ってくる。我が家か?

 

『また帰ってきたの?ちょっと長期の休みになるとすぐ帰ってくるよね』

 

『なんだよその言い方。ほんとは寂しかったくせに強がってんだろ?』

 

相変わらず人懐っこい笑顔とからかうのが大好きな性格。

 

「あら大貴くん!ちょうどよかった、かき氷とラムネ用意したの。食べるわよね?」

 

縁側から顔を出したお母さんに促され、大貴は当然のように食べます!と喜んだ。

 

 

『…っんー!冷てぇけどうま!』

 

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「やっぱ大貴くんはなんでも美味しそうに食べてくれるからいいわねー、○○のお婿に来て欲しいわ」

 

お母さんは大貴に会うたび昔からずっとそれを言ってる。それに対する大貴の返しも決まってて。

 

『俺、嫁に取る派なんで!』

 

おきまりの流れに2人で笑ってるのを、呆れたように眺める私。この光景もいつも通り。

 

昔は意識してたから「婿なんて言わないでよ!」って必死に怒ったけど、大貴の返しを聞いてとっくに失恋した気でいたからもうなにも感じない。

 

お母さんが片付けに行ってしまってから、大貴は立ち上がって縁側をふらふらと歩いてる。

 

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沈黙に慣れないでいると、ふと大貴が振り向いて切り出した。

 

『…俺今年からこっちの支社配属になった』

 

「…え?なんでまた急に」

 

「んー、ずっと希望出してたんだよな。今年やっと通って、秋からこっちに住む」

 

「そうなの?意外」

 

『ずっと帰ってきたかったよ。ちゃんとした仕事で、このド田舎でも稼げるようにさ』

 

「…へー、なんで?」

 

大貴は向こうできっと彼女とかできて、結婚するもんだと思ってた。

 

純粋な疑問から問うと、大貴はいつになく神妙な顔つきになった。

 

「…言いたくないならいいよ、私お母さんにラムネのお代わり貰ってくるね」

 

なんとなくいたたまれなくてその場を立ち上がると、大貴は立ち上がって私の腕を掴む。

 

『…お前さ、鈍過ぎじゃない?』

 

「え?」

 

はぁ、と溜息をつく大貴。仕方ない、という風に笑う。

 

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『なんで長期休みの度に帰省して、お前んち来てると思うよ』

 

「…食べ物もらえるから?」

 

『….ばか。ほんとばか』

 

「な、なによ!さっさと東京行って、私のことなんか置いてったくせに!」

 

思わず本音が出た。恥ずかしさと悔しさで泣きそうになって、手を振り払おうとするけど力が強くで敵わない。

 

『お前に会うために決まってんだろ!』

 

…どういう、こと。

 

それって、

 

『…気が気じゃねえんだよ。彼氏とかできてたらどうしようとか、定期的に様子見に行かないと』

 

「え…だって、嘘だよ」

 

『なにが』

 

「お母さんに婿に来いとか言われても断るじゃんか!」

 

自分でも何を言いだしてるのかよく分からなくなってきた。動揺してる。

 

『いや断ってねぇよ!お前を嫁にって意味!!」

 

大貴の言葉に思考が停止する。

ぽかんとしてしまった私に、大貴は勢いで言ってしまって恥ずかしかったのか真っ赤な顔で目をそらす。

 

ずっと失恋したと思ってたのに。

叶わないと思ってたのに。

 

そのくせに、離れてしまった大貴をずっと忘れられずにいた私も十分面倒な女だ。

 

『…ちゃんと仕事で結果出して、こっち戻ってきたら今度こそ“貰いに”行こうと思ってた』

 

大貴が落ち着いて喋り出した言葉とともに、縁側に少し風が吹いて風鈴が心地良い音を鳴らした。

 

『今からじゃ、遅い?』

 

「…っ、遅い、けど、遅くない」

 

『ふ、どっちだよ』

 

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涙が止まらなくて、ぐすぐす言いながら答える私を見て苦笑しながら、私を覗き込む大貴。

 

「私のことなんて、忘れたと思ってたから」

 

『ばーか』

 

優しく頭を撫でてくれる。その手は、ずっと待ち焦がれていた温もりだった。

 

 

 

「…忘れられないよ」

 

 

 

 

 

 

薮宏太ver.

 

『おい○○喜べ!金魚貰ってきたぞ!』

 

共働きの両親の代わりに、小さい頃からずっと遊んでくれた近所のお兄ちゃんの宏太くん。

 

宏太くんが仕事の都合で地元に帰ってきてから、またよく顔を出すようになった。何の用かと思いきや、突然の金魚。

 

「なんで金魚?」

 

『ちっちゃい頃、○○ずっと夏祭りの金魚取りしたいって言ってたじゃん』

 

「そうだっけか…ていうか宏太くん、私もう20過ぎよ?そして宏太くんは何歳?」

 

『29だ!』

 

堂々と言うアラサーの宏太くんは、昔と変わらないふにゃふにゃの笑顔で金魚を見つめてる。

 

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「そもそも金魚、だいぶ前に取ったよね?夏祭りで。まだ生きてるよ」

 

『そう。でも一匹じゃ寂しいと思って、知り合いの長生き金魚を譲り受けてきた』

 

今うちにいる金魚を取ったのは、多分私が小学校高学年で、宏太くんが大学生くらいの時。

 

地元の夏祭りは結構大規模で人も集まる。人混みに流されそうな私の手を繋いで宏太くんは歩いてくれたけど、私が当時は恥ずかしくて手を繋がるのを断ってしまった記憶がある。

 

本当は繋ぎたかったのに。

 

そしたら本当にはぐれちゃって、1人で神社の隅で泣きながら待ってたら汗だくになった宏太くんが見つけてくれたんだっけ。

 

『すぐはぐれるんだから。もう離れんなよ』

 

あの時の帰り道、宏太くんの汗ばんだ手の温もりが愛おしくて。

 

あの頃はどう見ても兄妹みたいだったけど、今はもしかしたら今は恋人に見えたり…するのかな。

 

結局目的の金魚は、最初『俺が取ってやるよ!』と意気込んでいたくせに宏太くんは壊滅的に不器用だったので、私が取ってあげたのも覚えてる。

 

それが、宏太くんと行った夏祭りの最後の記憶だった。

 

『お前の金魚が◯◯だから、新入りのこいつは宏太な!』

 

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「それは宏太くんが飼い主と同じ名前にすべきだ!って言って私の名前付けたんでしょ。ていうか、ちゃっかり自分の名前もつけてるし」

 

自分の金魚を、私の金魚がいる鉢に袋から流し込む。

 

『ほーら宏太〜。○○と仲良くな〜。お、○○が宏太に寄ってきた』

 

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「もういいって、なんか恥ずかしい…」

 

自分が言われてるみたいで変な気分だ。

 

『聞いてくれよ宏太。○○も、昔はよく「大きくなったら宏太くんのお嫁さんになる!」って言ってくれたのになぁ。最近全然言ってくれないんだよ』

 

あくまで金魚に語りかける宏太くん。

 

「何言って…」

 

『俺、ずっと待ってんのになぁ。大きくなったのに、言ってくれない』

 

 

…え?

 

冗談に聞こえるような聞こえないような、微妙なラインが確信に変わったのは、宏太くんがこっちを見た時だった。

 

『約束、もう時効?』

 

「…忘れてなかった、の?」

 

今の宏太くんは、私を見つけてくれた時と同じ顔をしてる。

 

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本当は昔からずっと、ただの近所のお兄ちゃんなんかじゃなかった。

 

今度こそ、堂々と手を繋ぐ関係に変わるとかかもしれない。

 

 

 

『…忘れられないよ』

 

 

 

 

 

 

 

山田涼介ver.

 

小さい頃に交わした忘れられない約束がある。

 

家から少し離れた竹林で、それはそれは綺麗な顔をした男の子と、12歳の夏休みに毎日遊んでいた。

 

近所の結構広範囲に渡り生い茂る竹林。夏場は程良く涼しくて。

その場所以外で会ったことはなかった。

 

名前は“りょうすけくん”。それ以外何も知らない。苗字さえも。

 

でもあの頃はそんなこと杞憂であるとでもいうように、ただ毎日彼と会って遊ぶことだけが楽しみだった。

 

2人で遊んだ記念に、結構手の込んだ風車のアーチを作ったりした。

 

そして夏休みが終わる頃、彼は言った。

 

『もうすぐ帰らなくちゃ』

 

「家に?」

 

『うん。本当の家は遠いんだ。しばらく、ここに来れない』

 

そう言われて私は泣いて行かないでと止めた。

子供ながらの寂しさだった。

 

りょうすけくんは諭すように優しく微笑み、私に大きな風車を渡してくれた。

 

『作ったんだ、これ』

 

「私に…?」

 

『うん。何年先になるか分からないけど、絶対ここに来るから。この日に。だから、この風車を持ってきて。俺も持ってくる』

 

そしたら君だってわかるから。

 

8月31日のことだった。

 

それから毎年、どんなことがあっても8月31日に私はこの竹林に足を運ぶ。

 

やがて仕事のために上京し、地元を離れても。

なんとか休みをもらって、この日に合わせて帰省する。

 

そんなことを続けて、もう12年が経とうとしていた。

未だにりょうすけくんは、一度も現れない。

 

「もう忘れちゃったのかな、あの約束」

 

12年も経てば、普通は忘れたと思う方が自然だ。

 

だけどそんな気にならずに毎年ここに来るのは、りょうすけくんが絶対に約束を守ってくれる男の子だったから。

 

あの1ヶ月も、私が毎日遊びたい!と無理を言ったのに本当に毎日来てくれて。

 

転んだ時もすぐに助けて手当てしてくれたり、雨が降ってきたら上着を貸してくれたり。

 

優しくて、大好きだった。

 

あれは幼い恋心だけで済まなくなってしまった強烈な記憶。

 

ただ、会いたい。

もう一度だけ。

 

しかし想いとは裏腹に、今年の8月31日も、日が暮れようとしていた。

 

「…帰ろう」

 

立ち上がった瞬間、夏の暑い日だというのに急に強い風が吹き上がる。

 

「びっくりし…た…」

 

アーチの中にいた私は、青いたくさんの風車がグルグルと勢いよく回りだし、思わず驚いて顔を上げる、と。

 

私の目に映ったのは風車ではなく、綺麗な顔をした男の人。

 

私が持ってるのと同じ模様の風車を、持っている。

 

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「…りょうすけくん?」

 

『そうだよ。○○ちゃん』

 

名乗られてもいないのに、すぐに分かったんだ。

 

あの時と変わらない優しくて、本当に綺麗な微笑み。

 

だけどあの頃とは全然違う、大人の男の人。

 

「っ…」

 

会ったら言いたいこと、たくさん会ったはずなのに。

 

どうして12年も来てくれなかったの、ずっと待ってたんだよっていう文句とか。

 

貴方はどこの誰なのか、とか。

 

でもいざ目の前にすると、頭が真っ白になってしまった。

 

そしてやっとの思いで出た言葉は、涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔とセットだった。

 

「会いた、かった…!!」

 

『うん。俺も…待たせてごめん』

 

思わず抱きついた。

 

もう何年も会っていなかったのに、何故だかその温もりにひどく安心した。

 

『あの頃は転勤族で、毎年夏に引っ越してたんだ。でももう、自分で好きなような生活ができる。○○と一緒に居たい』

 

これまで何をしてきたのか、そんなことはもうどうでもよかった。

 

会いに来てくれたから。

 

それから2人で、思い出を語りながら竹林を歩いた。

 

『…この風車、ずっと大事に持ってくれてたんだ』

 

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「ちょっと色褪せちゃったけどね」

 

『俺…山田涼介っていうんだ。りょうすけの字は、涼しいに介入の介』

 

「涼しい…夏にぴったりだね。心地良さそう」

 

そういうと、涼介くんは嬉しそうに笑う。

 

『….○○のそういう感性、昔から変わってないね。凄く好きだ』

 

いきなり好きと言われ、深い意味はないと分かっていても顔が火照る。

 

「そんな…」

 

『謙遜しないで?本当にそう思う。好きだよ』

 

真っ直ぐすぎる言葉に、今度こそ私は涙が出そうになった。

 

待ってよかった。本当に。

 

「私も…好き」

 

やっとの思いでそう答えると、彼はふわりと笑ってまた抱きしめてくれた。

 

また、風が吹いた。今度は強い風じゃなく、2人の周りをまとうような優しい風。

 

2人の再会を、祝福してくれているみたいだった。

 

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『ありがとな。待っててくれて』

 

「…ううん、こっちこそ。忘れないでいてくれてありがとう」

 

そう言うと、彼は“男の人”の顔で私を見つめた。

 

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「…忘れられないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや〜滾った。

幼馴染設定多過ぎかよ。

 

有岡くんver.が若干長いのは許してほしい。

 

 

合間の質が良すぎる画像が気になった方〜!!初回限定版を買ってくれば見れるぞ、まだあるぞどっかに〜!!

 

読んでくださりありがとうございました。